ファンマーケティングとは?グレイトフル・デッドに学ぶ「実験」と「共創」の仕組み | RFAコラム

ファンマーケティングとは?グレイトフル・デッドに学ぶ「実験」と「共創」の仕組み

 

 

ジャムバンドがファンマーケティング?他と同じことをしない選択

温故知新という言葉の通り、新旧問わずマーケティングやクリエイティブの書籍から、今に通じる手法を考えるのが本記事の企画です。広告会社やデジタルマーケティング会社で、20年以上現場に携わってきた筆者が、独自にピックアップした書籍を、自身の解釈も交えてご紹介します。

今回取り上げる書籍は『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』です。著者はブライアン・ハリガン(HubSpotの共同創業者)、デイヴィッド・ミーアマン・スコット(マーケティング・ストラテジスト)、監修は糸井重里。原著は2010年、日本語版は2011年に発行された、15年以上前の書籍です。

グレイトフル・デッドは、1965年にカリフォルニア州で結成されたバンドです。当時、レコードを販売することが主な収益源だった音楽業界において、彼らはそれとは異なる手法で、多くのファンを魅了してきました。そのアプローチは、現在のファンマーケティングにも通じるものがあります。

他と異なる選択をし、成功を収めたグレイトフル・デッド。彼らからは、マーケティングにおける『実験』と『異なる視点』を持つことの大切さを学ぶことができます。

本記事では、ファンマーケティングの本質を「仕組み」として分解し、実務に活かせる形で解説します。

 

グレイトフル・デッドが実践した、今に通じるファンマーケティング手法

コンテンツ無料戦略とは?リーチを拡大する仕組み

グレイトフル・デッドは、レコード販売中心の業界構造とは一線を画し、ライブを主な収益源とする戦略を選択しました。その結果、他のバンドとは異なる独自の「ファン体験」を構築しました。

例えば、曲のセットリストはライブごとに変わり、同じ楽曲でも毎回異なるアレンジで演奏されます。これにより、ファンは何度でもライブに足を運びたくなります。

さらに特筆すべきは、観客によるライブ録音を許可していた点です(商業利用しないことが条件)。録音しやすいよう専用席まで設けられ、録音者は「テーパー」と呼ばれました。彼らは音源を共有し、独自のサブカルチャーを形成していきました。

通常であれば収益毀損を懸念して禁止される行為ですが、結果としてライブ動員は増加し、レコードやCDの売上も伸びました。テーパーは「アンバサダー」として機能し、口コミによってバンドの認知が拡大していきました。

ここで重要なのは、「無料」であること自体よりも、「コミュニティ」と「体験」に価値があった点です。

ファンは「お客様」ではなく、対等なパートナー

グレイトフル・デッドは、1960年代から後に「デッドヘッズ」と呼ばれるファンコミュニティを形成しました。

彼らは単に音楽を楽しむだけでなく、ツアーに帯同し、会場周辺で交流しながら独自の文化を築いていきました。音楽体験は、コミュニティ体験へと拡張されていたのです。

「冒険の旅」は、ファンにとって様々な意味がありました。素晴らしい音楽を聴いたり、仲間と楽しい時間を過ごしたり、日常から逃避したり・・・ファンはコミュニティに自らの意味を見つけていました。

また、バンド自身も完璧なスター像を演じるのではなく、自然体で振る舞い、演奏ミスすら受け入れていました。その姿勢が、ファンとの心理的距離を縮め、「仲間意識」を生み出していました。

ファンを顧客としてではなく、共に成長するパートナーとして扱う。この姿勢が、新たな体験価値を生み出していたと言えます。

 

インフルエンサーやUGCの本質:投稿したくなる体験設計

ファンのクリエイティビティを信じる

グレイトフル・デッドの録音された音源は、ライブの数だけあります。デッドヘッズは、それらをコピーし、カバーを手描きのイラストで自作しました。

こうしてできた世界にひとつだけの作品を、大切な恋人や友人に共有しました。バンドはそれを制限するのではなく、むしろ許容しました。その結果、音楽は自然発生的に拡散していきました。

ライブ会場では、当初、非公式グッズが数多く売られていました。それらを完全排除するのではなく、ライセンス化することで共存を図りました。これは、ファンの創造性を活かしたエコシステムの構築といえます。

最も大切なのは、新規ではなく既存のファン

多くのマーケティング施策は新規顧客獲得に偏りがちです。しかし、既存顧客こそがブランド拡張の起点になります。例えば、SNSで自発的に投稿するファンや、商品を継続購入する顧客が、そのまま新規顧客の獲得につながります。

グレイトフル・デッドは、ロイヤリティの高いファンを起点にした拡散モデルを実践していました。

 

真似るのではなく、異なる視点を持つ

マーケティングは実験の連続

グレイトフル・デッドのライブは、即興演奏や楽器の試行などを通じて、常に変化していました。同じ内容のライブはなく、失敗も含めて「実験の場」となっていたのです。バンドは音楽的にもマーケティング的にも、常に他とは異なる独自の方法論を展開していました。

マーケティングの世界では、他社の成功事例を参考にすることは多いでしょう。しかし他社で成功した内容が、必ずしも自社に当てはまるとは限りません。他社事例の模倣ではなく、自社独自の仮説検証を繰り返すことが重要です。

練習をせずに楽器を弾くことができないように、成功するための近道は、トライ&エラーを繰り返すことなのです。

ありのままを伝える

グレイトフル・デッドの本質は、奇抜さではなく一貫した自己表現にありました。

バンドは自分たちを脚色したりせず、自分たちの立ち位置を見定め、最適な方法で自分たちのありのままを伝え、それがファンに受け入れられたのでした。

企業のSNSでも、最近は従業員が登場することが増えてきました。作り込まれたメッセージよりも、リアルな「ありのまま」を伝えることの方が、共感を生みやすい傾向があります。

グレイトフル・デッドは、そのことを実践することで、成功を収めたと言っても過言ではないでしょう。

 

 

ここまで見てきたように、ファンマーケティングは単なる手法ではなく、「体験」と「関係性」の設計です。

では、なぜ多くの企業はファンマーケティングに失敗するのでしょうか? 多くの場合、以下のような状態に陥っています。

  • 「フォロワーを増やす」ことが目的になっている
  • 体験設計ではなく「投稿設計」になっている
  • ファンをコントロールしようとしている

思い当たる点はないでしょうか?

 

私たちは「課題を解決する会社」ではなく、企業と共に実験し、成長していくパートナーでありたいと考えています。

自社ならではのマーケティングを一緒に模索したいとお考えでしたら、ぜひ一度ご相談ください。私たちと一緒に「冒険の旅」に出かけましょう。

【参考資料】
日経BP「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」(原題「Marketing Lessons from the Grateful Dead」) 発行 2011年12月12日 著者 デイヴィッド・ミーアマン・スコット (著), ブライアン・ハリガン (著), 糸井重里 監修
https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/11/P48520/